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107話 娘の虚像

Author: ニゲル
last update Huling Na-update: 2025-07-17 08:14:32

「おばさん誰?」

香澄という名など聞いたことないし、第一あたしの名前はメサだし、ライ姉に付けてもらったこの名前以外で呼ばれるのは正直言って不愉快だ。

「覚えていな……いや、十年も経ってるんだし仕方ないわよね。でも大丈夫。失った時間はまた取り戻せばいいから。ほら、早くお家に帰りましょ?」

「え? 家?」

正直気味が悪いし手を振り払おうとした。だができなかった。何故だかこの人を放っておこうとすると胸の底で何かがざわつき頭が痛む。

「うっ……」

突如としてとある光景がフラッシュバックする。どれもこれもが断片的なもので情報がちぐはぐだったが、全て今目の前にいる女性との楽しそうな光景だった。記憶の中の彼女は今よりも若くこんなにやつれていないが。

(もしかしてこれって今着てるこの"皮"の……?)

人間の死体を使いその姿に化けるイクテュスの技術。副作用で皮の人間の記憶の一部がフラッシュバックすることは既に聞いていた。ゼリルは高嶺の父親で、ライ姉は日雇いの現場仕事をしていた屈強な女性だったらしい。

(じゃああたしの皮の人ってもしかしてこの人の……)

先程の言動とあの態度。まるで娘に接するかのようだった。それらが答えへとあたしを導いてくれる。

「さぁ入って。新しいお家よ。ちゃんとあなたの部屋も用意して置いてあるから」

おばさんは嬉しそうに軽やかな足取りであたしを部屋に案内する。

「ここがあなたの部屋よ」

「あーうん。ありがと……」

部屋の中は綺麗でよく掃除が行き届いているが、置いてある物がなんだか古臭い。人間の文化に詳しいわけではないが、置いてあるおもちゃなどはこの前三人で行ったショッピングセンターに並んでいなかったものばかりだ。

「今お茶とお菓子持ってくるから待っててね」

おばさんは困惑気味のこちらのことなど気にせずに部屋を出てお菓子を取りに行く。

「この部屋……やっぱりこの皮の……」

置いてある物は全て十代前半程の女の子が好みそうなものばかりで、部屋の模様やインテリアも年頃の女の子のものだ。

(でもこの皮って確かあたしが生まれたきっかけになったあの地震の時に海に流れたものらしいから……)

大地震により生まれたあたしと、大地震により我が子を失ったおばさん。そこに奇妙な運命めいたものを感じ、心の奥底に今まで感じたことの
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